3月の終わりに、県内の児童養護施設で高校3年生の送別会を取材したことがあります。
花束を受け取った男の子は「来週から会社の寮です」とだけ言って、照れくさそうに笑いました。
紙面に載せたのはその笑顔の写真です。
ただ、記事を書き終えてからも、私の頭に残っていたのは「来週から」の先のことでした。
はじめまして、小暮佳代子です。
前橋に住み、県内の地方紙で24年間記者をしていました。
社会部とくらし面で福祉や教育の取材を長く担当し、いまはフリーで地域の記事を書いています。
施設を出た子供たちは、その後どんな暮らしをしているのか。
会社として、あるいは一人の大人として、何ができるのか。
この記事では、国の統計や調査、制度の中身を確かめながら、この2つを整理しました。
前橋の児童養護施設を長く支えてきた企業の例や、群馬の支援の現場の声も紹介します。
Contents
施設を出るのは原則18歳 2024年に変わったこと
児童養護施設は全国に607か所あり、2025年3月末の時点で2万1千人あまりの子供が暮らしています。
親の病気や経済的な事情、虐待など、家庭で暮らせない理由は一人ひとり違います。
児童養護施設などで暮らす子供は、原則として18歳で「措置」が解除され、施設を離れます。
実際には、高校を卒業する18歳の年度末に退所する子が多くいます。
必要と認められれば20歳まで措置を延ばせますが、延長はまだ一部にとどまっています。
令和5年度末に高校を卒業した児童養護施設の子は1,654人でした。
このうち、卒業後も施設に残ったのは456人です。
残りの1,198人は、卒業と同時に施設を出ています。
18歳を過ぎても支えが途切れないよう、2024年4月に改正児童福祉法が施行されました。
自立援助ホームなどで暮らしながら支援を受ける「児童自立生活援助事業」は、それまで原則20歳未満が対象でした。
改正後は年齢の一律の上限がなくなり、都道府県知事が必要と認めた時点まで続けられるようになっています。
あわせて、施設を出た人が集まったり相談したりできる「社会的養護自立支援拠点事業」も、法律に位置づけられました。
群馬県では、前橋市の一般社団法人ヤング・アシストが運営する「ヤング・アシストいっぽ」がこの拠点です。
制度の一覧や最新の統計は、こども家庭庁の社会的養護のページに資料集としてまとまっています。
数字の多くは、この資料集から引いています。
数字で見る「その後」の暮らし
大学などへの進学
令和5年度末に高校を卒業した児童養護施設の子のうち、大学・短大などへ進んだのは24.2%でした。
同じ年の高卒者全体では57.9%です。
専門学校などを足すと、施設の子は41.4%、高卒者全体は77.3%になります。
施設の子の大学等進学率は令和元年度の17.8%から少しずつ上がっていますが、差はまだ大きいままです。
お金と健康
国は2020年度に、施設や里親家庭を離れた人の暮らしを調べる全国調査を行いました。
厚生労働省の委託で、三菱UFJリサーチ&コンサルティングがまとめたものです。
対象は2015年4月から2020年3月までに措置が解除された人で、2,980人が回答しました。
調査結果の概要は、厚生労働省の措置解除者等の実態把握に関する全国調査の資料で読めます。
目に留まった数字を挙げます。
- 毎月の収支が「赤字」の人は22.9%
- 過去1年に、病院や歯科を受診できなかった経験がある人は20.4%
- 受診できなかった理由は「お金がかかるから」が66.7%で最多
- 退所に向けて不安だったことは「生活費や学費のこと」が47.0%で最多
- 不安の2番目は「仕事のこと」38.8%、3番目は「将来のこと」35.8%
- 今後使いたい支援は、奨学金や貸付などのお金の支援が29.0%、住まいや食事の支援が26.7%
注意したいのは、回答率が14.4%にとどまっている点です。
施設側が調査の案内を出せなかった理由の約6割は、住所や連絡先が分からないことでした。
連絡が途絶えた人の暮らしは、この数字以上に苦しいのではないか。
長く取材してきた身としては、そう見ています。
仕事と住まい
認定NPO法人ブリッジフォースマイルは、全国の施設を通じて退所者の状況を追う調査を毎年行っています。
2025年の調査では、高校卒業後に正社員として就職した人のうち、3か月後に14.3%、1年3か月後には44.9%が最初の会社を辞めていました。
同じ調査で、18歳と19歳の正社員のうち3割以上が「社員寮・借り上げ住宅」に住んでいます。
寮つきの会社は、保証人を立てにくい若者にとってありがたい就職先です。
その反面、仕事を辞めると住まいも一緒になくなります。
18歳で入った職場が合わなかったとき、普通は実家に戻って次を探せます。
施設を出た子には、その「いったん戻る場所」がありません。
辞めたくても辞められず、無理を重ねてしまう若者の話も、取材先で何度か耳にしました。
| 項目 | 数字 | 出どころ |
|---|---|---|
| 大学等進学率(施設の子) | 24.2% | こども家庭庁(令和5年度末卒業) |
| 大学等進学率(高卒者全体) | 57.9% | 同上(学校基本調査) |
| 毎月の収支が赤字 | 22.9% | 厚生労働省の全国調査(2020年度) |
| 1年3か月後の離職率 | 44.9% | ブリッジフォースマイル(2025年) |
施設を出たあとに使える公的な支え
退所した人を支える制度は、少しずつ増えてきました。
主なものを挙げます(貸付は、保護者の支えが見込めないなどの条件があります)。
- 就職した人に、家賃相当額を2年間貸し付ける「自立支援資金貸付」
- 進学した人には、家賃相当額に加えて生活費を月5万円まで貸し付ける
- 自動車の運転免許などの資格を取る費用として、25万円まで貸し付ける
- 5年間働き続けると、貸付金の返還が免除される(資格取得の分は2年間)
- 就職やアパートを借りるときに施設長などが保証人になると、その損害保険を全国社会福祉協議会がかける「身元保証人確保対策事業」
- 相談や交流の場になる「社会的養護自立支援拠点事業」
ただ、制度はあっても、知らなければ使えません。
困ったときに頼る先が分からないまま一人で抱え込む若者は、取材でも何度も見てきました。
群馬県の広報紙「ぐんま広報」の2018年11月号で、ヤング・アシストの山岸有香さんがこう話しています。
「社会的養護の元で育った若者たちは、困ったときにどこに相談し、誰に助けを求めたら良いのか分からないことがあります」。
記事は県のぐんま広報の特集ページで読めます。
企業にできること
在園中の暮らしを長く支える
前橋市堀越町に、「鐘の鳴る丘少年の家」という児童養護施設があります。
戦後間もない1947年に、品川博さんが戦災孤児の少年たちと一緒に始めた施設です。
この施設を長く支えてきたのが、エステティックサロンの「たかの友梨ビューティクリニック」(株式会社不二ビューティ)です。
同社の公式サイトによれば、支援は1989年に始まり、たかの友梨さんは1995年に施設の後援会長に就いています。
支援の中身は、子供たちが施設で過ごす日々を彩るものが中心です。
- 2002年に屋内体育館「たかの友梨レインボーホール」を寄贈
- 2007年に食育のための「レインボーハウス」を寄贈
- 2009年に芝生の遊び場「レインボーガーデン」「レインボーフィールド」を寄贈
- 1999年から2019年まで、毎年夏に子供たちを東京ディズニーランドへ招待
- 毎年のクリスマスに、ケーキとプレゼントを贈る
コロナ禍のあいだは、施設を訪ねずに贈り物だけを届けていました。
2025年12月25日には6年ぶりに対面での交流が戻り、スタッフ8人が41人の子供たち一人ひとりにプレゼントを手渡したそうです。
たかの友梨さんは2014年に掲載された現代ビジネスの記事で、こう語っています。
「子供って、どんなに性格が歪んでいようが、その子に罪はないんですよ。その先に無限の可能性がありますからね」。
支援については「一番トクをしているのは私かもしれませんね」とも話していました。
これまでの寄贈や行事の流れは、たかの友梨さんと施設の子供たちのボランティア活動をまとめたページが追いやすいです。
公式の記録を見るかぎり、同社の支援は退所後の就職や住まいに直接かかわるものではありません。
それでも、30年以上にわたって同じ会社の人たちが毎年訪ねてくることには意味があると、私は考えています。
施設を出たあとに「あの人たちがいた」と思い出せる大人が、一人でも多いほうがいいからです。
食育のための建物を贈ったことも、あとで効いてくる支援だと思います。
一人暮らしを始めた若者が最初につまずきやすいことの一つが、毎日の食事だからです。
巣立つ時期を支える
同じ鐘の鳴る丘少年の家の公式ブログを読むと、巣立ちの時期には別の支援者も関わっていることが分かります。
2023年12月には、上毛新聞社の「愛の募金」から、自動車免許、新入学、就職後などの自立支援に使えるお金が配分されました。
同じ月に、伊勢崎ロータリークラブが高校3年生にスーツを贈っています。
暮らしを彩る会社があり、巣立ちの費用を出す団体がある。
一つの会社がすべてを担わなくても、役割を分ければ支えは厚くなります。
車がないと通勤しにくい地域が多い群馬では、運転免許の費用は就職に直結します。
高校3年生のスーツも、面接や入社式にすぐ必要になるものです。
巣立つ前の数か月に何がいるのかは、施設の職員がいちばんよく知っています。
仕事と住まいの面では、兵庫県が2025年6月に最初の認定を行った「ひょうごケアリーバー応援企業」の制度が参考になります。
ケアリーバーとは、施設や里親家庭を離れた人のことです。
兵庫県の認定制度のページを見ると、認定では次のような取り組みが確認されます。
- 社会的養護やケアリーバーについて、社内で理解を深めているか
- 施設や里親とのつながりや、社会貢献の実績があるか
- ケアリーバーが安心して働ける社内の体制があるか
- 施設や自立支援拠点などの関係機関と連携できているか
認定企業は、2026年8月の更新時点で14社です。
前出のぐんま広報の記事でも、山岸さんは地域への願いとして、事前の就労体験、保証人がいない子への住まいの提供、料理を教えるボランティアを挙げていました。
寄付やボランティアで気をつけたいこと
善意から始めた支援が、施設の負担になってしまうこともあります。
社会的養護の情報サイト「たすけあい」の記事では、施設職員がこう話しています。
「単発の人の支援は、子どもたちへの離別体験を再発させ、支援にならない以上に、その子に対してのマイナスファクターになってしまうことが多い」。
同じ記事によると、ランドセルは国から施設に支払われる「措置費」で買えます。
寄付されたランドセルが使われないまま倉庫に眠っていた、という話もあるそうです。
| 関わり方 | 具体例 | 気をつけたいこと |
|---|---|---|
| 寄付 | お金、施設の設備、行事の費用 | 物を贈るなら、必要なものを先に施設に聞く |
| ボランティア | 行事の手伝い、学習支援、料理を教える | 単発で終わらせず、続けられる形を考える |
| 仕事 | 就労体験、採用、職場での見守り | 寮つき採用なら、辞めたあとの住まいも考える |
| 住まい | 部屋探しの手伝い、保証の相談 | 公的な身元保証の制度とあわせて使う |
物を贈るときに、お礼の形をいくつも指定しないことも大切だと、たすけあいの記事は伝えています。
会社の広報のために写真や報告を求めすぎると、施設の手間が増えるだけです。
初めて施設に連絡するときは、たとえばこんなふうに尋ねると話が早く進みます。
「〇〇株式会社の△△と申します。社として継続的に支援できることを探しています。いま足りていないものや、高校3年生の巣立ちの準備で困っていることがあれば教えていただけますか。物品、費用、人手のどれでも検討します」
最初から形を決めて持ち込むより、相手の困りごとを聞くほうが、長く続く関わりにつながります。
まとめ
施設を出た子供たちの多くは、18歳で住まいと仕事を同時に決め、一人で暮らし始めます。
大学への進学率は高卒者全体の半分に届かず、毎月の家計が赤字の人も2割を超えています。
就職しても、1年あまりで半数近くが最初の会社を離れています。
国の制度は2024年の法改正で手厚くなりました。
それでも、困ったときに顔が浮かぶ大人がいるかどうかは、制度だけでは決まりません。
在園中の暮らしを長く支える会社もあれば、巣立ちの費用を出す団体もあります。
仕事や住まいで受け止める会社も、全国で少しずつ増えてきました。
自分の会社なら、どこを受け持てそうか。
まずは近くの児童養護施設に、いま何が足りていないかを尋ねるところから始めてみてください。
最終更新日 2026年10月29日 by furiwa